毎年5月に開催されている日本ギタリスト協会主催のクラシカルギターコンクール。
今年も審査させていただきました。
協会から定期的に発行されている会報「ギタリストノート」に本選の感想を書いてほしいとのことで、昨年に引き続き書きました。
やや辛口ですが、愛の鞭と思っていただければ(笑)、、、と思います。
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第56回クラシカルギターコンクール本選。
課題曲は『さくらの主題による変奏曲』(横尾幸弘作曲)で、二次予選に合格した6名が腕を競った。
私が最も好印象に思ったのは、宇田奈津美さん。宇田さんは予選1位通過で、私は本選も1位と評価したが、結果は0.2点差で2位。ミスが減点になったことは否めず、自由曲『ロッシリアーナ』の最後は、調子よく盛り上がっていただけに「あ〜惜しい」と思わず言葉が出てしまった。ミスをしてもなるべく傷を小さくするためには、日々の練習でも音楽の流れを止めない意識が重要になると思う。ダイナミックな表現の中に繊細さも兼ね備え、音を大切にしているのが伝わる演奏で、音楽そのものを楽しませてくれたことに感謝したい。
さて、今回1位になったのは赤井香琳さん。赤井さんは昨年3位のベテランで、その演奏はいつもアイディアに富んでいて個性的だ。昨年のギタリストノート(No.164)でも「ちょっとヘンなのに、なんかイイ」と感想を書いたが、今回はせっかくのアイディアも逆効果に感じられる点があった。特に課題曲の『さくら』では、上品な日本画に油絵の具をこってり使って色付けしているような違和感が残ってしまった。今回のような作品では、素材(楽曲)の美しさを生かすために、あれやこれやと「足し算」で考えるよりも、日本人の持つ謙虚さや奥ゆかしさを大切にして「引き算」で考える中に、本当に大切なものが見えてくるような気がする。とはいえ、積極的な表現力や演奏技術は第1位としてふさわしく、来年のゲスト演奏が楽しみだ。
そして、3位は松島淳さん。松島さんは予選課題曲『ドビュッシー讃歌』のラスト、PPPへの道筋を最も美しく描けていたように思う。息をするのを忘れてしまったほどだった。本選『さくら』も自然な歌い回しで良かった。欲を言うなら、やや画一的になるので表現の幅をもっと広げてほしい。芯のあるしっかりした音も魅力なので、また来年に期待したい。
惜しくも上位入賞を果たせなかった3名も、レベルの高い予選を通過しただけあって様々にキラリと光るものを持っている。さらに研鑽を積んで来年是非またチャレンジしてほしいと願う。
(ここまで)